住まいに対する思い (寺澤氏)
私が建築に興味を持つようになったのは、20代の頃に、安藤忠雄さんが住吉の長屋 を建てるまでを追ったテレビドキュメンタリーを見たことがきっかけです。自分がそれまで住宅というものに対してもっていた概念を 根底から揺さぶられたのです。

外から見れば窓一つなく、味もそっけもないコンクリートの箱なのに、その内側には外観の印象を見事に裏切る光豊かな空間がある。このときに初めて建築というのは、単に雨風から人を守る箱を作ることではないんだと納得できたように思います。それはあたかも、画家が風景を思い通りに切り取るように、建築家は空間をいかに切りとるかに腐心しているということを教えてくれました。

暑さ寒さを感じること、風と光を感じること、雨を感じること、これらは人が自然の一部であることを思い起こさせてくれる瞬間です。建物の内部を人が完全に制御し安全で快適な生活のみを追及するのではなく、こういった自然をとりいれることで、空間を豊かにできるという考えかたに、私は共感します。豊かさは便利だけからできているのではなく、便利と不便あるいは無駄が混ざり合って成立するものだと思うからです。
 森村さんとの出会い (寺澤氏)
私が最初に森村さんにお会いしたのは、2000年の夏のことでした。カーサウエストが主催する住宅見学会で、『下京の町屋』を見せていただいた時に 初めてお目にかかりました。私が抱いていた建築家のイメージと違いたいへん話し易そうな人だなと思いました。
そして何よりもその下京の町屋のシンプルで美しいファサードを一目見て感激しました。ほぼこの瞬間に、私のなかでは結論はでていました。 「この人に決めた」と。

そもそも、カーサウエストの住宅見学会に参加したのは、「家をたてたい」と言うよ りも「家を見たい」という動機のほうが先行していました。もともと建築が好きで、あちこちの有名建築家の建物を見に行くのが趣味だったので、その延長で、建築家の建てる個人住宅を見てみたいというのが本音でした。
自分の家を建てると言うのは一つの夢であり、将来そうなればいいなあという程度の願望の域を出ないものでした。ですが森村さんにお会いしたことがきっかけとなって夢が俄かに現実化に向けて走り出したのです。
 下京の町屋 (森村)
下京の町屋は、うなぎの寝床とよばれる京の町屋の建替として計画。
隣接する木造住宅の外壁を境界線とした敷地は、前面道路を南側に、南北に伸びる間口4.4m奥行き13.6mからなる。階段室を軸に南北に貫通したスリットは、パンチング階段や、ファイバーグレーチィングフロアを使用し、ポリカースクリーンを開閉することで、通風や採光、温度調節を屋上のペントハウスを通じて機能させている。しっくい調に施された外観は内部の機能をそのままに、水平垂直に伸び、刻々と変化する地域環境に対し、軽快な浮遊感と共に、都心に住み続ける可能性を見出す一例。
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